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RAGとは?最新情報を自在に活用するAIの“新しい常識”と活用術を徹底解説

作成者: 仲山 隼人 (Hayato Nakayama)|25/03/24 8:27

 

ここ数年でChatGPTやBERTといった大規模言語モデル(LLM)が世界的に話題となり、ビジネスだけでなく日常のコミュニケーションや情報検索にもAIが浸透してきています。
 
そんなAIの進化の流れのなかで、新たに注目を集めているのがRAG(Retrieval Augmented Generation)という手法です。RAGは、従来のAIモデルが抱えていた「最新の情報を取り入れるのが苦手」という課題を、リアルタイムの情報検索で解決する可能性を秘めています。
 
本記事では、そんなRAGの基礎から具体的な活用例、導入するメリット・リスクまで、余すことなくお伝えしていきます。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

RAGとは?

RAG(Retrieval Augmented Generation)(検索拡張生成)とは、「検索(Retrieval)」+「生成(Generation)」 を組み合わせたAI技術のことを指します。簡単に言うと、大量の情報から関連性の高い情報を検索し、それを元に正確な回答を生成するAI技術です。
 
従来の生成系AIモデル(LLMなど)は、学習時点までに取り込まれたデータをもとに文章を生成するため、学習後に発生した新しい情報には対応が難しい側面がありました。
一方、RAGは外部データソース(データベースやウェブサイトなど)を「今この瞬間」に検索することで、常に最新かつ信頼性の高い情報を取り入れながら文章を生成するのです。
 
例えば、友人とランチに行くお店を決めようとしていて、「近所で話題の新しいカフェはないかな?」とAIに尋ねたとしましょう。
 
RAGを活用したAIであれば、最近オープンしたばかりのカフェ情報や、SNSの最新口コミを検索し、それを取り込みながらお店を提案してくれます。
これまでのAIでは学習データが古いままだと、新しいお店の情報が反映されないまま「何年も前に人気だった店」を紹介する可能性がありました。
しかしRAGなら、リアルタイムで外部情報を取得して回答できる点が大きな強みとなるのです。
 
 

RAGの仕組み

基本プロセス

 
RAGは大きく分けると以下のフローで動作します。
 
  1. ユーザーが質問をする 例:「おすすめの映画教えて!」など。

  2. 検索モジュールが該当のデータを取得 データベースやAPI、ウェブ上の情報などを参照し、関連性の高い文章・データを抽出。

  3. 生成モジュールが回答を組み立てる 検索結果をもとに、自然言語でわかりやすい文章を作成する。

 

なぜ精度が高いのか

 
 
従来の生成系AIは、学習データのみを参照し「自分の記憶の中」で答えを紡ぎ出していました。これだと学習時に含まれていない情報や最新のトレンドを反映できず、誤った推測や古いデータに基づいた回答になりがちでした。
 
一方、RAGは 「必要なときに外部検索を行う」 ため、急速に変化する情報をキャッチしながら生成結果に反映できます。 たとえばニュースサイトのAPIに繋ぐことで、すぐに最新の事件や出来事を踏まえた回答を生成できる点が魅力的です。
 
 
 
 

RAGとLLMの違い

LLM(Large Language Model)は膨大なテキストデータを一括で学習し、言語の文法や言い回しを高度に理解できるようにしたモデルを指します。ChatGPTやGPT-4などが代表的な例で、非常に自然な文章を生成できる反面、学習時に含まれなかった情報には対応が難しく、「最新情報の取り込みが不得手」 という課題がありました。
 
RAGは、LLMが苦手とする「学習後に生まれた知識」を外部検索で補う仕組みを持っています。
 
要するに、LLMが持つ豊かな言語生成能力と、最新情報の検索能力を組み合わせることで、「常に最新かつ正確な文章生成」 を目指すのがRAGです。
 
 
例えば、去年リリースされた映画に関する情報はLLMには入っていない可能性がありますが、RAGなら外部の映画データベースを検索して、その映画のあらすじや評価を文章にまとめてくれるでしょう。
 
 
 
 

RAGとファインチューニングの違い

 
ファインチューニング(Fine-tuning)とは、既存の学習済みモデルを特定のタスクや領域に合わせて追加学習する方法です。
例えば、医療分野向けにLLMを微調整する際は、医療文書や研究論文を学習させて専門知識を深めることで、より適切な回答が得やすくなります。
 
RAGの場合は、専門知識を増やすためにモデル全体を再学習させる必要は必ずしもありません。必要な情報源と検索アルゴリズムが適切に設計されていれば、外部データベースや文献を都度参照して回答を生成できます。
 
例えば「法律分野の質問」に対しては、最新の法改正情報を蓄積したデータベースにアクセスしながら回答を生成する、といったイメージです。これにより、ファインチューニングに要する時間・コストを削減 できるのが大きなメリットといえるでしょう。
 
 
 
 
 
 

RAGを導入するメリット

最新情報の反映

 
 
RAGを導入する最大の利点は、いつでも最新の情報を踏まえた回答を生成できる点です。社会情勢や市場の動向は日々変わり続けています。ECサイトの商品在庫や価格、SNSのトレンドといった情報も、リアルタイムでアップデートが必要です。
 
従来のLLMでは時系列のズレが生じやすかったのですが、RAGならこの問題を大幅に軽減できます。
 
 

信頼性の向上

 
 
「AIが答えた結果を鵜呑みにしていいの?」という不安を抱えるユーザーは少なくありません。しかし、RAGなら外部データを参照するため、回答に裏付けが得られやすいという強みがあります。
 
例えば、ニュースの引用や学術文献のリンクを回答の根拠として示すことも可能で、回答の信頼度を高められます
 
 

コストと時間の削減

 
 
RAGでは、必要に応じて検索するだけなので、すべてをモデルに学習させる必要がない 場面が多々あります。大規模データをファインチューニングするにはサーバーリソースや学習時間が膨大にかかりますが、RAGを使えば更新が頻繁な情報を外部データとして管理すればいいため、運用上の負担も減らせるでしょう。
 
 

柔軟な拡張性

 
 
RAGは外部データソースを適宜追加できるため、新しいサービスやAPIを簡単に組み込めます。
 
例えば、金融分野に特化したい場合は市況情報や経済指標を扱うデータベースを追加すればよく、医療分野であれば最新論文やガイドラインのデータを接続するだけで専門的な回答の精度を高められます。
モデルの根本的な再学習を必要としないため、拡張性が高い という点が大きなメリットです。
 
 

多様な情報源の統合

 
 
SNSのユーザー投稿、ニュースサイトの記事、企業の内部ドキュメントなど、複数の情報源を横断的に検索し、総合的な回答を生成できるのがRAGの強みです。これは情報の偏りを減らす効果も期待でき、より幅広い視点を盛り込んだ分析やレポートを自動生成できるようになります。
 

RAGの活用例

ビジネス領域での活用

 
 
 
カスタマーサポート
 
RAGを用いて問い合わせ内容を分析し、マニュアルやFAQデータベースを検索しながら回答を生成します。たとえば「商品が壊れてしまった場合の対応は?」という質問に対して、修理対応の手順や保証ポリシーを踏まえた正確な回答を返せるでしょう。
回答作成時に常に最新の製品マニュアルを参照するため、古い情報を使い回すリスクが減ります。

営業やマーケティング
 
SNSやニュースサイトなど、多様な情報源を一括検索しながらレポートや提案書のドラフトを生成することも可能です。業界トレンドや競合分析など、時間のかかるリサーチを効率化できるほか、最新の動向を反映した説得力のある資料を素早く作成できます。
 

医療・学術分野での活用

 
 
医学論文や最新の臨床試験データを検索しながら、研究者や医療従事者向けに要約を作成するなど、高度な専門性を要する場面でもRAGは重宝されるでしょう。学問の世界は日進月歩で新しい知見が生まれるため、新たな研究成果を即座に取り込んだ議論や分析が可能 になるのは大きなメリットです。
 
 

日常生活での活用

 
 
 
旅行やレジャーの計画
 
「明日行く場所はどこがいい?」といった質問でも、RAGを用いればSNSで話題のスポットや最新の観光情報を即座にキャッチしてくれます。

レシピ提案
 
冷蔵庫にある食材と、ネットのレシピサイトをRAGが連携させれば、旬の食材情報や最新の人気料理を盛り込んだレシピを提案してくれるイメージです。
 
 
 
 

RAGの精度を高める方法

質の高いデータソースを確保する

 
 
RAGの性能は、外部から取得するデータソースに大きく左右されます。もし誤情報や古い情報が含まれているデータベースを検索してしまえば、生成される回答も正しくない可能性が高まります。
したがって、信頼性が高く、定期的にアップデートが行われるデータソースを選定することが重要です。
 
 

適切な検索アルゴリズムの設計

 
 
RAGが行う検索自体の精度が低いと、全く関係のない情報を引っ張ってきてしまい、回答の質が落ちる原因となります。検索クエリの生成や文書の要約・タグ付けなどを最適化し、なるべく的確に関連情報を抽出できるようにしましょう。
 
例えば、自然言語処理技術を使って文書の類似度を高精度で計算し、最適な文書を上位に表示するアルゴリズムを組み合わせると効果的です。
 
 

フィードバックループの活用

 
 
生成された文章に対してユーザーや専門家がフィードバックを行い、その結果をRAGの学習・調整に反映させるサイクルを回すと、回答の品質はさらに向上します。
 
たとえば「回答が不正確だった」「参照した情報源に誤りがあった」といった指摘を蓄積し、システム側で改良を続けるのです。
 
 
 
 

RAGを導入する際のリスク

セキュリティとプライバシーの問題

 
 
RAGは外部データベースと連携するため、データの取り扱いを慎重に行わなければなりません。
 
たとえば、機密情報や個人情報を含むデータベースへアクセス可能な設計にしてしまうと、漏えいリスクが高くなります。適切な認証や権限管理を実施し、安全に情報を扱えるようにすることが必須です。
 
 

偏った情報源による誤回答

 
 
もし参照するデータソースが偏っている場合、RAGの回答も偏った意見や誤情報を含む可能性があります。
 
例えば、特定の政治的立場だけを支持する記事ばかりを検索してしまえば、極端に一方的な内容が生成されかねません。複数の信頼できる情報源をバランスよく活用できる環境を整備しましょう。
 
 

運用コストやシステム構築のハードル

 
 
外部データベースとの連携にはAPIや検索アルゴリズムの実装が必要であり、それなりの初期コストや保守・運用負担がかかります。小規模ビジネスや個人プロジェクトで導入する際は、コスト対効果を慎重に見極める必要があるでしょう。
 
さらに、検索対象となるデータの更新頻度や拡張性によっては、システム全体のアーキテクチャ設計にも十分な配慮が求められます。
 
 
 
 

RAGの今後 

技術的進化の見通し

 
 
AIの世界は驚くほどのスピードで進化を続けています。今後はLLMの高度化や検索アルゴリズムの洗練がさらに進み、RAGがより精密かつ高速な情報統合を行えるようになるでしょう。
 
 

社会へのインパクト

 
 
RAGが一般に普及していけば、個人の生活やビジネスの在り方が大きく変わる可能性があります。
 
例えば、オンライン検索という概念自体が「検索しながら生成する」スタイルにシフトすることで、ユーザーは直感的に疑問や課題を投げかけるだけで最適な答えを得られるようになるかもしれません。
 
さらに、これが複数の分野へ横断的に広がると、知識や情報へのアクセスが飛躍的に効率化 され、人々の学習や意思決定のスピードが加速するでしょう。
 
 
 
 

まとめ

RAG(Retrieval Augmented Generation)は、従来のAIモデルが苦手としていた「最新情報の取り込み」を実現する重要なアプローチです。生成系AIが外部データベースを参照できるようになることで、常にアップデートされた情報源 を活用できるようになり、精度と信頼性を兼ね備えた回答を提供しやすくなります。
 
ファインチューニング不要で導入コストを抑えられる場合もあり、企業から個人まで幅広く恩恵を受けられるでしょう。
リスクとメリットを天秤にかけつつ、段階的にテストしながら最適解を探る ことが成功のカギとなります。
 
RAGをうまく取り入れることは、AI時代の主役になる一つの大きなステップ かもしれません。いまこそ、その扉を開けてみませんか?